―「マクロスF(フロンティア)」という作品は総監督にとってはどういった作品ですか?
早いもので、もうすでに最初のOAから10年以上たってしまった訳ですね。
当時、私はマクロスシリーズの映画やOVAでの監督経験は有ったのですが、テレビシリーズに総監督として入るのは初めてだったので、すごく感慨深い作品です。
「歌」と「戦闘」と「三角関係」の要素を非常に色濃くエンターテインメント化する事にチャレンジしたので、とても印象に残っていますし、これだけの年数が経っても、ファンの方々にずっと愛されているのが凄く伝わってくるのでとても嬉しいですよね。
―10周年に対してどのような思いがありますか?
マクロスとしてはテレビシリーズをやるのも凄く久しぶりだったので、21世紀にふさわしいマクロスが作れるかというのは凄くチャレンジングでした。でもこうして江端里沙さん、高橋裕一さんにキャラクターデザインをお願いできて作画面でも凄く魅力的なものが作れたと思っています。
もちろん菅野さんの音楽と、May’nさん、中島愛さんによる歌姫たち。そしてアルト役の中村悠一さんをはじめとする素敵なキャスト陣。それからシリーズ構成の吉野さんだったり、共同で監督してくださった菊地さんだったり腕の良いCGチームのメンバー皆の力を集めて銀河スケールのエンターテインメントができたんじゃないかなと思っていますし、今年MX4Dで「イツワリノウタヒメ」を再上映することが出来て、まだまだずっと続いているなという気持ちがありますね。
―「マクロスF」は10周年、「マクロス」は35周年。今も人気が衰えない理由はチャレンジし続けていることにあるでしょうか?
歌姫も一人じゃなくあえて今回二人で行くとか、学園ものにしてみるとか、あとは敵も人間型ではなくバジュラという宇宙怪獣的なものにしたりとか色んなことを試してみました。あと当時としては凄い思い切った物量のデジタル戦闘シーンを駆使して、画面的にもかなり進んだことができたと思っています。
―シェリルというキャラクターにはどういった思いがありますか?
シェリルを生み出した頃は、最初のマクロスの企画からすでに25年経っていたので、音楽シーンが多様になりすぎて、ひとりの歌姫だけだとカバーしきれない気がしていたんです。そこでシェリルとランカという2人の歌姫を考えて、一人は洋楽にやや近いようなアーティスト路線、一人は日本のポップスに近いようなアイドル路線みたいな対比もつけてみました。シェリルを結構思い切って「私はスターです」といえるキャラクターに踏み込めたのがすごく良かったなと思っていますね。どうしても日本型だと、控えめになりすぎやすいので。
そこをシェリルとランカを分ける事でそのキャラクター性を凄く強く出せたのではないかと考えていますね。
―衣装も毎回曲ごとに違いますが、大変なところはありましたか?
ライブ衣装は、テレビアニメで作画するのには大変なものも多くて。実際に江端さんにお願いする時もアニメーションで描くときはパーツ減らすけど、イラストで描くときはいくら増やしても良い事にしました。だから実際モデルとか作る時どっちが正解なんだという話をよくされたんですよ。最初のうちは(笑)。
―モノに起こすのも大変だったんですね。
そうですね。ランカの方はアニメーションキャラクターとして分かりやすいのですが、シェリルの方はより幻惑的というか(笑)。
シェリルは一見すると美人系に見えながら実はそれほど細めの顔じゃなく若干丸顔に近かったりとかね。目の大きさも江端さんが描く絵によってけっこう変わったりするので(笑)、髪型も毎回違うので、シェリルというキャラクターの強烈なイメージ像はあるんですけど、絵にするときって結構いろんな表現をしています。実際の歌手の人でもそうですけど歌に合わせてとか、その年代に合わせて髪型も違えばメイクも違うし衣装も違えて全部雰囲気変えるじゃないですか。そういう意味でのアーティストでありスターを目指したので、どれが正解かと考えてしまうと掴むのが皆大変なことになりますよね(笑)。
―総監督が特に気に入っているシェリルの髪型と衣装はありますか?
自分の場合色んな変化があるのが好きなので、毎回毎回違うこと自体が好きなところがあって、その分アニメチームは覚えられなくて大変ですよね。スタッフの方々には本当にいつも御苦労いただき、感謝しております。
江端さんが凄く細やかに変えてくるので、今回どこが新しいんだろうというところから入るみたいな(笑)。
―ご自身が監督された作品の商品を監修される際には、どの様な思いがありますか?
フィギュアに関してはバルキリーをはじめとする可変戦闘機類もキャラクターも基本的にはほとんど見せていただくようにしているんですけど、なるべく思っているのは、元になった服とかキャラクターデザインの絵と、それから今度それを担当してくださる原型師の方とその両方の個性を大事にしたいなというのが基本にあります。あくまでやっているのは監修であって監督ではないので、例えば原型師の方が違えば肉感の取り方も違うし、ちょっとしたポーズの取り方も違うんですけど、そこもなるべく活かしたいんですよね。
だからそこを活かしつつ元の絵の良さと両方を掛け合わせたときにどこが落としどころかというところが一番気にしているところですね。
どうしても自分の場合正解が一個に定まりすぎちゃうのが、しっくりこないというか。昔の手書きのアニメの時代って作監毎に絵が違っていても、その作監当てを皆で楽しんでいた世代なので、あまりにも総作監制で絵が統一されすぎちゃうのが若干抵抗があるんです。描き手が違うんだから個性が違ったっていいじゃないかみたいなところがある世代なので、原型師の個性も残しつつ元のキャラに見える範囲の中で何ができるだろうみたいなのはとても気になるところですよね。
―アニメーション作品だけでなくフィギュアでも新しいチャレンジをされているのですね
そうですね。立体は本当にね。特にイラスト一枚からの場合って違うアングルの時に、このアングルでは最高にかっこいいし、綺麗に見えるんだけど、ちょっとアングル変えたときに立体が破綻しないかとかね。回してみた時に変化がちゃんとあった方が面白いしとか、その辺は原型師さんによってもポージングや重心の取り方はもちろん、髪の流し方を工夫してくれたりとか、色んなところの気の使い方が面白いですよね。
―メカニックと人物で監修される際の違いはどこにありますか?
メカニックのフィギュアだと力強さであったりシャープさがメインになってきてますね。色んなところ曲げたりシワを寄せたりといった細かいことはできないので、本当にちょっとした面の張り具合とかエッジの出し具合とか、あとはプロポーションですよね。そこが大きなポイントになります。キャラクターの場合、柔らかくてより自由なところがあるじゃないですか。あとは本物の人間どおりだと、顔の立体とか目のサイズとかがアニメキャラと合わないので、その辺の微妙なところが難しくて面白いところですね。どこまでデフォルメしていいかとか、あと普通の人だと関節はここまで曲がらないけど体が柔らかい人だと曲がるよね、とか。
―シェリルのフィギュアを監修される際、特にこだわって確認される点はありますか?
肉感的でありながらぽっちゃりしすぎないし、かといって細くなりすぎてギスギスしないこと。ちゃんとしなやかで筋肉はあるんだけれども女性らしさを失わないとか、そういうのはすごいポイントになりますね。あとやっぱり顔は本当に難しいですよね。毎回髪型とその時の衣装によって顔立ちの雰囲気も違ってくるので同じ眼を付ければいいってもんじゃないし(特に今回は眼にハートマークが入っています)目は本当にポイントですよね。
あとは全体的な傾向で何年かやってきて面白かったのは、シェリルの場合ってやっぱ凄いスターって感じではあるんですけど、フィギュアにした場合は若干幼くした方が受け入れられやすいとか。ここは本当に実際に試してみて、まぁ日本で受け入れられるってそういうことなのかなって。だから実際に江端さんが描かれている絵よりもほんの少しだけ年齢感とか柔らかくなっているくらいで大体調整していますよね。
シェリルの独特なセクシーさを残しつつ、顔だけちょっと幼なめの可愛らしさを足してみるっていう。
これが絵の時(幼なめの可愛らしさを入れる)だと急にシェリルっぽくなくなっちゃう。それが立体にしたときにその(絵の)通りだと洋物のモデルさんみたいになって、より多くの方には受け入れてもらいにくくなってしまう。
だから絵の通りでもちょっと違うところが凄い難しい所ですよね。
―今回の造形もそのこだわりを活かされていますか?
超然としたところがありながらも可愛らしさを失わずみたいな。かといってさっきの話で行くと目(の大きさ)が1%、2%違うだけで印象が全く違ったり。あといつも思うのは原型で見た時と実際に(量産品に)なった時の本当にわずかな収縮の違いとかをある程度読まなければいけないのが凄く難しいとかね(量産はPVCなどの素材によって違ってくる)。その辺は(一番くじ開発担当に)うかがってみたいな。本当に最後の最後は上がってくるまで(調整をする)。
―彩色原型は初めてご覧になりますが、今回のフィギュアで良い点はどちらでしょうか?
やっぱり凄いディテールとかが細かく細かく出来てるし、ポーズもただの立ちポーズではなくて大胆にシェリルらしいポーズなのでその辺がとても魅力的ですよね。
―今回のシェリルの衣装はいかがでしょうか?
江端さんが流石なのはゴージャス感がありながら見せるところは見せてる事。健康的でありながらもかなりセクシーさがあり、いやらしくならないギリギリを狙うという彼女の持ち味がいい感じで出ていますよね。いろんな角度から見て楽しめます。
―このフィギュアを観賞する際のおすすめの角度はありますか?
正面下からのきわどいぐらいの角度がいいですよね。あとはシェリルの右肩からちょっと斜めぐらいの角度もねぇ。上からは上からでいいよね。単なる立ちポーズだと真上に近いとただの棒になっちゃうけどこれだと全然ちがうよね。
色んなレンズでアングルを変えて撮ったら、撮り甲斐ありますよね。
―BANDAI SPIRITSの新ブランド「FIGURE SPIRITS KUJI」について期待したいことはありますか?
どんどんどんどんフィギュアのグレードが上がってくると、前だったら凄いなと思えたものが凄く思えなくなってくるという過酷な時代になっていますよね。そういう意味では思い切った高級ブランドで、より色んなことにチャレンジしていけるというのはとても魅力的ですよね。それに合わせてちょっと手描きアニメーションの中だと出しにくいくらいのディテール感のものでもこうやって立体になっていくのが凄く楽しいですよね。
―ユーザーに向けてコメントをいただけますか?
本当、ようやく実物をお見せできるので色んな角度から舐めるようにというと言い過ぎになってしまいますが(笑)、自分にとってのベストアングルを見つけるような気持ちでシェリルにアプローチしていただきたいですね。ぜひぜひ、これが第二弾、第三弾と続くように応援して頂けると嬉しいです。